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宮崎汎のモロッコ見聞録 #1 旅情をかき立てる国、モロッコ

2026年06月27日 8:49

モロッコは、日本人の目からすると、見るものすべてが物珍しく、どこか蠱惑的な魅力を秘めた国である。人々は穏やかで親切、食べ物も美味しい。日本での慌ただしい日常をしばし忘れさせてくれる、癒やしの地でもある。

千年の歴史を刻む古都、活気に満ちた近代都市、迷路のようなメディナ(旧市街)、古代ローマ遺跡、幽玄なサハラ砂漠、日干し煉瓦のカスバ、オアシスの緑、雪をいただくアトラス山脈、思わず手に取ってみたくなる民芸品や骨董品の数々──。思い浮かべればきりがない。

モロッコとは、旅情を大いにかき立ててくれる国なのである。

近年のモロッコは、アフリカ大陸初の高速鉄道が開通し、高速道路や国際空港の整備も進んでいる。新しいホテルや、古い邸宅を改装した「リヤド」と呼ばれる宿も増え、旅行者にとっての利便性は年々向上している。

旅先で誰もが気になるのは安全である。

私はこれまで何度かモロッコを訪れているが、怖い思いや不安を感じたことは一度もない。だからであろうか、近年は若い女性の旅行先としても人気が高いと聞く。

以前、ある席で羽田孜元首相の隣に座る機会があった。

「モロッコのどこへ行ったの?」

そう尋ねられたので、「カサブランカです」と答えると、羽田さんは少し身を乗り出してこう言われた。

「カサブランカは東京と変わらないじゃないか。フェズを見なさい。あそこがモロッコだよ」

その言葉がずっと心に残った。

後日、古都フェズを訪れた。千年以上の歴史をもつ旧市街は、迷路のような細い路地がどこまでも続き、人々の暮らしの息づかいが聞こえてくるようであった。

なるほど、羽田さんの言葉はその通りであった。

モロッコをさまよい歩いていると、思いがけない感動にしばしば出会う。

切り立った山肌を縫うように走る山岳道路、素朴な村々やカスバ、目もくらむような渓谷、真っ白な町、青く染められた町、人々の穏やかな笑顔──。

いつしか、自分が異次元の世界を旅しているような不思議な感覚になる。

だから私は、何度訪れても飽きることがない。

モロッコとは、旅人の心を優しく揺さぶり、旅情をかき立ててくれる国なのである。