モロッコを旅していると、思いがけない感動に出会うことがある。
近代都市ワルザザートからバスに乗り、途中で四輪駆動車に乗り換えて荒野を進む。乾いた大地の中に点在するオアシスの緑を眺めながら進んでいくと、やがて大砂丘が連なるサハラ砂漠にたどり着く。
日本にいると、砂漠と聞けば砂が広がる風景を思い浮かべる。しかし実際に目にするサハラは、その想像をはるかに超えていた。
どこまでも続く赤い砂。
果てのない砂の連なりである。
日本には「白砂青松」という言葉があるが、サハラの砂は赤い。
日の出を見るため、真夜中に宿を出発した。ラクダの背に揺られながら、静かに砂丘を目指す。
ふと空を見上げて思わず息をのんだ。
満天の星である。
星空に押しつぶされそうな錯覚を覚えた。
砂は限りなく細かいパウダー状で、音を吸い込んでしまうのだろうか。あたりは驚くほど静かである。
あまりの静寂に、ひどく孤独を感じたことを今でも覚えている。
やがて東の空がわずかに明るくなり始める。
太陽が顔を出した瞬間、地平線の彼方まで続く砂丘は、一斉に赤く染まった。
その光景は、まさに息をのむ美しさであった。
サハラ砂漠への玄関口であるワルザザートは、カスバ街道の拠点であり、世界的に有名な映画スタジオの基地でもある。
映画俳優たちが滞在する立派なホテルもあり、現在では映画の町としても知られている。
もともとはフランス軍の基地として築かれた町だという。
モロッコをさまよい歩いていると、時折、自分が異次元の世界を旅しているような不思議な感覚になることがある。
サハラ砂漠で過ごした一夜は、まさにそんな体験であった。
満天の星、音のない世界、そして朝日に染まる赤い砂丘。
あの光景は、今でも忘れることができない。

